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科学リテラシーは一日にしてならず [もろもろ]

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鎌田浩毅著「地震と火山の日本を生きのびる知恵」(メディアファクトリー、2012/03/02)を読んだ。

火山学・地球科学の第一線の研究者で「科学の伝道師」も自任する教授が書き下ろした本だから、一般の人向けにわかりやすく3・11後に日本がどう変わってしまったのかを解説する本だろう...と思って手に取ったのだが、読み進めていくとどうも少し違う。
冒頭は確かに地震や火山について、最新の知見をまじえた科学的な話がわかりやすく展開されるのだが、中盤以降はずっと地球科学的な時間軸の話や科学と人間の関係など、話題がどんどん広がっていき、なかなか着地点が見えないのだ。
終盤まで読んで「あ、こういうことを書きたかったのか」というのが見えてきたところで、最後の最後にその答えがしっかり書かれていた。
(買う前に立ち読みでどんな本か掴みたい人は、「おわりに」から読むのがいいかもしれない)

まず、この本はハウツー本ではない。
地震や火山の正しい知識は得られるが、「ではどうやって自分や家族を守るのか」「何を準備しておけばよいのか」などの答を探している人にとっては、家具は固定しておこう、くらいしか見つけることはできない。
しかし、そういう「あれこれハウツーを探し求めてしまう」「他人の情報に頼ってしまいがち」な人こそ、この本を読むと良いのではと思った。

著者は、地球のダイナミズムは人間の力では到底どうにもならないスケールで動いていることを極力平易に説明した上で、そういう自然とどう向き合うかという心得や考え方(著者は「視座」というより的確な一語を使っている)をこの本で説こうとしている。
これはある意味危険な挑戦で、つまり大雑把に要約すると
「これからは大きな余震、内陸直下型を含む誘発地震、火山の噴火、東海・東南海・南海の連動型地震を想定して生きねばなりません」と煽る一方で、
「科学は力を発揮できる部分もあるが限界もあるので、過大評価は禁物です」
「長い目で見れば日本はどこでも地震や噴火のおそれがあるけど、災害のない多くの時間は恵みをもたらすのだから、人間が本来持っているしなやかな柔軟性で乗り切っていこう」
みたいな文脈になってしまうのだ。
もし、上記のような著者の狙いが読み取れないと、何を言いたいのかわからない、という感想になりかねない。

しかし、科学リテラシーの下地のある人(理系思考のできる人、と書いた方がわかりやすいけど、ちょっと語弊があるので)であればどれも納得できる話ばかりで、自分のこれまでの自然観と融合させる(「腑に落ちる」感覚といえばいいだろうか)のは容易だろうと思う。

科学者であり読書家でもある著者の中では、こうした視座が確固としてあるのだろう。
世の噂やマスコミの報道に流されたくないような人は、こうした科学リテラシーを養える本は新鮮に映るのではないだろうか。


最後にちょっとした指摘を。
本書P53で、400kmの距離をP波(7km/s)とS波(4km/s)がどれだけの差で到達するかの計算で、400÷(7-4)≒130 とやっているのは明らかに間違い。
400/4-400/7≒43 とすべきだった。
一般向けの本だからこそ、こういう点は注意してほしい。重版や文庫化の機会があれば直るといいのだけれど。
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