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危険学プロジェクト バージョンII 報告会に行った [もろもろ]

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写真は六本木ヒルズの東北復興支援企画で展示されていたGoogleストリートビューカ―。

3月9日に開催された、危険学プロジェクト バージョンII の報告会を聞きに行った。
2011年から毎年行っているが、いつも新鮮な刺激があり、日々の物事の捉え方に危険学の発想が入り込んでくるほど影響を受けている。

危険学は現在進行形のプロジェクトであり、知見はどんどん蓄積されているのに、体系的に危険学を教える本はまだない。
報告会当日資料が最新の危険学を知るのにいちばん役立つが、残念ながら複製・転載禁止なので、3年ぶりに報告会内容のメモを書いておこうと思う。
(2011年のメモはこちら: その1 その2

※当初は特に気になった内容だけにしようと思ったものの、危険学プロジェクトの全体像が少しでも伝わればと思い、長くなりますが特別講演を除く全報告のメモをまとめて書いておきます。(グループによってはかなり端折っているものもあるので申し訳ありません)

危険学バージョンII 2013年度末報告会
2014.03.09(日) 13:00~18:10 六本木ヒルズ49階 アカデミーヒルズ

プログラム:http://www.sozogaku.com/hatamura/news/lecture,1388985009.html

○畑村代表挨拶
・2004年の回転ドア事故の後、「ドアプロジェクト」を始めた。誰が悪い、何がおかしいをやっておしまい、から脱却して、同じような事故を起こさないための別のアプローチをしようと思った。
・(危険について)根本的に世の中の考え方を変えようと思っているが、なかなかうまくいかない。そこで2007年に危険学プロジェクトを立ち上げて5年間活動し、2012年から危険学バージョンIIに入って丸2年が終わった。
・これは勝手連のプロジェクトで、国の金に寄りかからない。いろんな会社や個人のサポートがあって活動できている。もし金銭に換えたらすごい金額になる。
・消費者庁が始まり、今まで勝手にやってきたことが生きる。国も7年経って、いろいろと動き出している。
・みんなでやるのは大事。この毎年の報告会がみんなのパワーになっている。安全な世の中の元を作っているんだなと思ってやっている。


○畑村代表:2年目を振り返って
・原子力の取り組みは、航空(ベンチマーク)と比べてきわめて幼稚。これまであまり言わないようにしていたが、この頃はもっとはっきり言おうと思うようになってきた。
・原子力のグループ(12)は、震災の何年も前から議論していた。
・危険学の基本的な考え方
 参考リンク:http://www.sozogaku.com/kikengaku/gaiyou.php の図1参照
 1.従来は「ここを通りなさい」という道だけが示されている(=外部基準)。
 2.危険学では、まず「危険地図」を示す。どこにどんな危険があって、それをどうすれば回避できるかという「場所」「特性」「防ぎ方」が書いてある。
 3.そこに危険があるという旗を立て、遠くから俯瞰できるようにする。
 4.一人ひとりが遠くから全体を見て、自分の判断で危なくないゴールへの道を見つけられる(=内部基準)。
自らで考え、見方を変えて、自分の判断で危険を避ける。こうすることで、本当に事故を減らすことにつながる。
・現在の日本は、
 - 「絶対安全・安心」の追求
 - 自分ではなく誰かが安全を確保してくれる
 - 危険の存在そのものが “悪”
 という考え方をする面があるが、絶対に安全(事故が起こらない)とか、安心(危険を考えなくて良い)というのは不可能。
・危険学では、
 - 危険は危険と認める
 - 危険がどういう特性を持つかを知り、発現しない方策を考える
 - もし発現しても、被害を最小限に抑える
 という考え方。
 正しい対策は、どんなに調べて考えても、どうしても気付かない領域が残ることを想定して準備しておくこと。
・原発の場合、いろいろ考えて「安全とわかっている」ところは良い。「それでもまだわからないことがあるから危険」と言えない雰囲気があるが、それを言わねばダメ。そして、「危険だからダメ」ではなく、手を打っていかねばならない。
・その際に、具体的な事例から抽象概念に一度上り、本質を把握してからまた新しい事例に下りて具象化する。失敗、危険に至ったシナリオと似ているな、というシナリオマッチングで予見すること。
・昨年もいろいろな現場を見に行った。全体を理解する見方として、
 1.事前に学習していく
 2.実地検分する
 3.上空から俯瞰する
さらに、そこで終わらず
 4.改めて考える ことが大事。
・各グループの活動概要を紹介(略)

○グループ(4)情報とシステム
・近代から現代にかけ、農業の時代、軽工業の時代、重工業の時代と来て、今は情報・知識の時代。
・情報を利用したサービスが高度化し、情報にまつわる失敗・危険が出てきた。
・どうして情報伝達において齟齬が生じるのかを議論してきた。
・情報として伝達できるのは、記号化された形式情報のみ。観察者の脳内にある「意味情報」は、(言語や図などの記号)+(目や耳などに入ってくる刺激から知覚した意味)がセットになっており、個人間で異なる。しかし記号化したものしか相手に伝えられないために齟齬が起こる。
・受け取った相手の脳内で、新たな意味情報が作られる。個人間で異なる意味情報を “知” へ昇華させることにより、言葉やデータの伝達で普遍的な知識を活用できるようになる。

○グループ(7)遊具
・長野県木祖村に設置した、リング型ブランコや遊動円木、回転ホッピングシーソーの改良など。特にホッピングシーソーは、大人用の席を2人乗りにすることでバランス調整の自由度が増し、重労働だった調整ウェイトの脱着作業が不要になった。
・関連リンク:信州やぶはら高原 こだまの森 http://www.kodamanomori.jp/?p=1981

○グループ(8)子どものための危険学
・バージョンIIでは、「子どもの事故防止と防災」の情報発信に取り組んでいる。
・小学校での子ども向け授業、幼稚園・保育園の先生向け講演など
・活動詳細を伝えるホームページを運営: http://www.kikengaku.com/public/

○グループ(10)災害
・三現:現地、現物、現人 で、実態を調査
・災害を様々な視点、切り口で見てきた。特に、災害経済学、先人の知恵に学ぶ観点を提案したい。
・東日本大震災の際、国土交通省東北地方整備局の迅速・的確な初動が参考になる。
 関連書籍:『災害初動期指揮心得』¥350
 2015.02.22追記 現在、Amazon Kindle ストアで無償配布されています。
 (注:入手は東北地域づくり協会の販売窓口に問合せ http://www.tohokuck.jp/
・自然の力を「かわす」知恵が求められている。過去の地震や豪雨、山体崩壊などの災害のメカニズムを調査し、自然との共生について考える。
・信玄時代の治水技術など、先人の知恵を活かしていきたい。

○グループ(11)ベンチマーク
・巨大化・複雑化したシステムにどう向き合うかに注目し、安全ベンチマーク・リスク評価を行なってきた。最終目標は、レジリエント(しぶとく、しなやか)な安全・安心な道筋を見つけること。
・経済事故が台頭してきている。事故がないことを理由に利益追求型に比重が移り、いつの間にか技術・品質の条件が経済的理由に優先されて安全維持ができなくなっている。
・JAL123便と福島原発事故の共通点:想定を超える事象発生の結果、全破壊に至る
・航空は「落ちるリスクがある」が前提。100%絶対安全はない。あるのはリスクのみ。リスクを受け入れ、許容できるまで最小化し、これに備える。実体のない安全に依存し、壊れた時の次善策が欠如すると、必要以上に被害が拡大してしまう。

○グループ(12)原子力
・除染の「その場深穴埋め方式」の推進を2013年5月から始めた。
・その場深穴埋め方式とは、深さ2m弱の穴を掘り、周囲の表土のみを集めて埋める方法。前提として、放射性物質の多くを占めるCs137が、土粒に吸着されると固く結びついて容易に地下水に溶出しないという特徴を持つこと。
(例)25m四方(約200坪)の土地の一角に5m×5m×深さ1.6mの穴を掘り、周囲の表土(約5cm)を集めて埋める。穴を掘った時の土は、表土を削った面に覆土する。
・地表や地下への放射線の漏洩は十分低く抑えられる。また、現在のように表土を袋詰めし、中間貯蔵施設・最終処分場に運び、積み上げる作業に費やしている多大な労力が不要なため、除染の時間・コストを大幅に低減できると予想される。
・最初に各方面に情報収集したところ、なぜこの方式で早くやらないのか不思議なくらいだとわかった。次に、有力者への働きかけを行ない、次に実験を行なった。

1.情報収集
・放射線医学研究所、原子力研究開発機構福島技術本部、国立環境研究所へのヒアリングをしたが、いずれも「その場深穴埋め方式」が最も合理的である、という判断は共通であった。
・『海外の専門家からも「なぜ、そのような方式を採用しないのか」と不満の声が上がっている』『50年前の大気圏核実験による放射能の地下への浸透も1m以下である』等のコメントも得られた。
・福島市大波地区の仮置き場を現地調査。470戸分で16,000立方メートル、野球場ほどの面積。

2.有力者への働きかけ
・経団連や原子力学会、自民党原発事故究明小委員会などにアプローチ。
・谷垣法務大臣(2013年9月)、石原環境大臣(2013年10月)にも働きかけた。
・総じて、科学技術的に問題がなくても、実際にやるには様々な課題があり簡単ではないという反応。

3.現場実証実験
・福島県内に山林を持つ住人の協力を得て、2013年11月から実証実験を開始。
・深さによる放射線量の測定のために塩ビパイプを立て、地下水収集用のパイプも埋設。
・鉛直方向の線量分布は、汚染土を埋設した範囲にピークがあり、地表付近では平均1.9μSv/hと効果が認められる。
・実験は現在も継続しており、本報告では一部の結果のみ。結果が出たらまた報告したい。

・(科学的に有効でも)なかなか進まないのは、政治的・社会的な理由(住民の不安や、県外に出すべきといった心情面の配慮)だが、現実問題として470戸分の除染で野球場並みの中間貯蔵施設が必要な現在の方式では10万戸分の処理は不可能である。
・各専門家は「問題ない、正しいやり方」だと認めている方式。だが、社会は動いていない。

・原子力規制の在り方について。危険学から見て「想定以上のことは起こらない」というのは間違い。リスク許容値を定め、許容値以下に抑える。
・ねじ一本に至るまで厳しくチェックするような面があるが、細かな規程に偏ることなく、事故が起こっても全体として被害を低減できるような、レジリエントな(しぶとい)システムを目指すべき。
・日米の規制の比較をすると、欧米は大きくものごとを捉えるのがうまいのに対し、日本人は細かいところから積み上げていく。NRCの「良い規制の原則」を紹介。日本版「良い規制の原則」の提案をめざす。
関連リンク:Nuke Power Talk記事 http://nukepowertalk.blogspot.jp/2013/05/japans-nuclear-regulation-authority_17.html

○グループ(14)高齢者
・日本の人口ピラミッドは、2055年には75歳以上の高齢者が4人に1人になる。労働人口も大幅に減る。
・したがって高齢者を守るだけでは衰退する。高齢者がいろいろな所で働いたり、消費したりする社会が必要。
・高齢者の自立期間は9割、要介護期間は1割と意外に短い。自立期間をより元気でい続けられることが重要
 → 「元気高齢者」を増やすための活動が今後の方向性。危険マップの作成、集まる場の提供、元気情報の提供等。

○グループ(15)社会インフラ
・笹子トンネルの崩落事故は、工学的な報告しかない。コンプライアンスや不祥事の観点では、まとまった情報が全くない。検討の方向を変え、インフラの現状を考えている。知見としてまとまっていないが、現状を報告する。
・首都高は、高齢化(30年以上経過した路線が多数)、維持管理の難しさ(当初の想定より過酷な交通量)、交通上の課題(線形が悪い、渋滞多発しやすい箇所)等の課題がある。
・危険が現実化しているにもかかわらず、大規模更新(予防)へのコンセンサスが得られていないのではないか、と考え、事業者にぶつけてみたところ、適切に計画的に行なわれているとのことで、余計なお世話だったかもしれない。しかし、過去に戻す「補修」ではなく、現在の実態に合わせ、より適合した創造的で新しい保全をすべきではないか、といった議論をしているところである。
以上



特に気になったのは、グループ(12)が提案・推進している「その場深穴埋め方式」による除染方法について。
どこにでも使える万能の方法ではないし、解決すべき課題もある(例えば数百年にわたり埋めた場所を示す必要がある)が、この方式は多くの地域でより素早く除染を進める現実的な解になりうると思えた。
長期化する避難生活で亡くなる方も増加と報じられる中、早期の帰還に繋がる可能性があるこの方式には期待したい。

もし実験で期待どおりの結果が得られた場合、当然ながら危険学プロジェクトからの提言スタンスは「安全が確認できたからやりましょう」ではなく、例えば「この条件で安全確認できた、コストと時間はこれくらいでできる、危険はこのようなものが考えられ、こういう対応策を打つとここまでは低減できる」みたいな形になるのではないかと思う。
行政は、安全性・経済合理性・科学的リスク・社会的リスク(国内/国際)など総合的に考慮しなければならないが、どれか一つに偏りすぎた判断にならないようにしてほしい。

何より、この問題の当事者を始めとする日本の社会が、絶対安全はないことを理解し、等身大のリスクを認識して、その存在を受け入れ許容できるかどうかというのが「その場深穴埋め方式」の最大の課題である。
それはまさに危険学プロジェクトバージョンII が取り組んでいることそのものだと思える。

まずは、実地試験の最終結果が出るのを注目していきたいと思う。

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